File no.4 大阪府様
大阪府福祉部のDXを支援。PoCでの業務アプリケーション構築により、指導監査等業務の効率化に挑戦
【顧客概要】
大阪府庁 福祉部 福祉総務課:大阪府における福祉施策を主に担当。子どもや高齢者、障がい者など、誰もが身近な地域でお互いを支えあい、尊重しあいながら、安心して暮らすことができるよう、福祉施策の総合的な推進に取り組む。
大阪府庁 スマートシティ戦略部 行政DX推進課:大阪府における行政のデジタル化の推進や庁内ネットワーク・情報基盤・職員端末機の運用管理等を担当。住民のQOL(Quality of Life:生活の質)向上を目標に掲げた大阪スマートシティ戦略のもと、庁内における業務の効率化・生産性向上を図るべく、IT/デジタルを活用した業務改革に取り組んでいる。
【事例要約】
大阪府福祉部の業務改善の取り組みの一環として、福祉部における「指導監査等業務」(社会福祉法人及び社会福祉施設等に対し、関係法令等に基いて行う運営実態の確認及び指導)の効率化を目指し、PoC(Proof of Concept:概念実証)の手法で、システムの適合性や移行可能性の検証を行った。「指導監査等業務」は、確認結果を紙ベースで記入するほか、一部の書類のやりとりに郵送を使用するなどアナログ業務が多く、時間と手間を要することが課題だった。その結果、実施率も伸び悩んでいた。この課題を解決するため、指導監査の効率化を支える業務アプリケーションのプロトタイプ(試作品)をSalesforce上に構築。プロトタイプ構築は2回のフェーズ(段階)に分けて行い、検証を重ねた。この業務アプリケーションが本稼働した場合、指導監査等のチェック項目の現地での直接入力が可能になるほか、データベース化により過去の記録の整理や管理の煩雑さがなくなり、関係所属でナレッジの共有も可能になると想定。また相手の事業者等とマイページ上で情報のやり取りを行うことで、申請書類が届くまでの時間も短くなると想定、業務効率化が見込まれた。指導監査の担当職員の直接の声を参考に、実際の業務に必要な機能に最適化したシステムのプロトタイプを構築したことにより、本PoCの有効性が示された。
【導入製品・サービス名】
Salesforce(Customer 360 Platform、Experience Cloud)
- 業務アプリケーション構築(指導監査)フェーズ1
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2023/6〜2023/08
- 業務アプリケーション構築(指導監査)フェーズ2
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2023/8〜2023/10
導入前の課題
ーそれぞれ業務内容を教えていただけますか?
北村様:
私は、大阪府の福祉部福祉総務課で総括補佐を務めております。業務の柱は主に3つありまして、課内の総務・庶務業務、メイン業務となる福祉部全体の組織・研修・人事に関する業務、そして民間企業と協力したDXを含む福祉部内の業務改善、それぞれの統括を行っております。
大野様:
私は、大阪府の行政業務のデジタル化の推進や庁内の業務改革などを行っております。今回はPoC環境を利用したプロトタイプ開発を通じて、福祉部DXの企画・伴走支援、そして開発委託事業者(IT FORCE)との調整を行う役割として参画いたしました。
ーなぜ、今回は福祉部のDX化を推進したのでしょうか。課題やお困り事についてお話を聞かせてください。
北村様:
課題は様々にあるのですが、業務量に対して慢性的にマンパワーが追い付かず、多くの時間外勤務が生じているという危機感が前提にあり、デジタルの力でなんとか職員の負担を軽減できないかと考えていました。その中でも、複数のセクションに跨って改善が可能ではないかと感じたのが指導監査等業務で、令和4年度に「スマート福祉の実現に向けたDX人材の育成と業務改善等に関する協定」の一環としてセールスフォース・ジャパンさんが実施いただいた研修の中で、参加した若手職員が「法人指導監査業務の見直し」を提案してくれたことがきっかけです。社会福祉法人や社会福祉施設等に対して、法令等に違反することなく適切に運営ができているかをチェックリストに基づいて確認し、問題があれば助言や指導を行うといった業務で、基本的には現地に行って対応する必要があります。しかし、コロナ禍の影響によって、近年は現地に行く回数が減り、職員のスキル・ノウハウの蓄積にもばらつきが生じていると聞いていました。
また、現地では紙のチェックリストに直接記入するため、実施後の処理に時間がかかる、一部の資料のやりとりは郵送で行われているなどアナログ業務が多いほか、膨大な数の事業者や過去の指導監査等に関するデータを整理・管理することも職員にとって大きな負担になっているようでした。そこの部分をデジタルの力で改善したいと考えました。
ー大阪府全体の行政業務DXの視点ではいかがでしょうか?
大野様:
大阪府として行政サービスや業務効率の向上を図っていく必要があると考えています。特にアナログ業務は、職員のマンパワーに頼っている部分が多く、早急にデジタル化を推進する必要があります。今後も人口減少に伴う職員数減少の中で、行政サービスを維持するためにも、DXによる業務効率化は不可欠だと考えています。
そのために、今回は福祉部のDX化の意向を踏まえ、指導監査等業務という領域から着手することにしました。
ーPoCから始めた理由はなぜですか?
大野様:
庁内の各部門のDXを伴走支援するにあたって、DX化を推進するにあたり、クラウドサービスへの適合性や移行可能性を検証できる環境がまだなかったため、PoCという手法を採りました。まずは、使用する職員のイメージが湧くように、実際に触れるプロトタイプをつくり意見を引きだそうと考えました。小規模の試作や実装、検証を行うことにより、小さな成功体験を積み重ねながら、システム導入の効果を見える形にして、府民の利便性向上と業務の効率化に資するアプリケーションの検討を行う仲間を増やしたいという気持ちもありました。
北村様:
複数の部署に具体的なイメージを持ってもらうため、ある程度形になっていて、実際に操作できるものがある方が、検討が進みやすいのではないかという目論見はありました。業務改善にはどうしても「産みの苦しみ」が伴うため、そこの心理的ハードルを下げるためにも、PoCが効果的だと感じました。
ーSalesforceを選択した理由を教えてください。
北村様:
福祉部内には社会福祉法人等に対する指導監査の他にも、実地指導など、スキームの近い業務が複数存在しており、指導監査だけにとどまらないスコープの広いソリューションを当初から構築して横展開したいという考えがあり、クラウドサービスの活用を念頭に置いていました。どの業務においても、「ポータルサイトを介した情報のやり取り」「チェックリストの現地入力」「データベースの構築」が肝になる仕組みが必要であり、データベース間の連携を考慮すると、その中でもSalesforceがベストチョイスだと感じました。
大野様:
コロナ感染が拡大した際に、大阪府の療養者管理システムの構築でSalesforceを使いました。感染者が多くなってきて日々対応が変わる中、次々と出てくる施策ニーズに対してスピーディに必要な機能を開発できるほか、データの管理や関係者との情報共有もできました。業務アプリケーションの試作・検証を行うPoC環境には適していると感じたためです。
PoC構築までの道のり(プロジェクト進行中の様子)
ーPoC構築中での印象深いエピソードがあれば、聞かせてください。
北村様:
PoC構築当初は、IT FORCEさんと部内のプロジェクト参加者の「間に立つ」ことが大変でした。私を含め、部内の参加者は専門的な会話になかなかついていけず、そもそもSalesforceってどんなサービスというところから理解していく必要がありました。システム構築も最初は現実味をおびておらず、参加者の一人が「こんな夢みたいなシステムが本当に完成するんでしょうか」とつぶやいたのを覚えています。実際に業務に関わる人からしたら「夢みたいなもの」を今、みんなで試行錯誤しながら作っているんだと感じて、身が引き締まる思いでした。
行政DX推進課と、IT FORCEさんの専門的な会話を理解することに加えて、指導監査や実地指導のことをIT FORCEさんにわかりやすく伝える、そしてIT FORCEさんの考えている意図を部内のプロジェクト参加者にわかりやすく伝達するといった点も苦労はありましたが、次第にこのような「境界線上に立って調整すること」が自分の役割だと感じるようになっていきました。
打ち合わせ回数が進むにつれて、若手職員とベテラン職員、IT FORCEさんと行政DX推進課と福祉総務課の私たち、部署も立場も年代も違う人たちが、いいものに仕上げるために意見を出し合う空気が心地よく、「これがDXの醍醐味」と勝手に感じてしまいました。次第にメンバーの団結力も高まってきたように感じました。
大野様:
大阪府として、PoCのアジャイル開発は、初めての試みであり前例がなかったため、不安もありましたが、IT FORCEさんがPoC業務アプリケーション構築を進めてくださり、感謝しています。新しい挑戦でしたが、プロトタイプに実際に触ることでどんどん現場から意見を引き出すことができ、よりよいものに改良していく経験ができたことは大きかったと思います。PoCという手法をとった甲斐があったと思いました。
ープロトタイプ環境を触ってみて、感想はいかがでしたか?
北村様:
PoCでの業務アプリケーション構築のフェーズは2回あり、1回目の際は、正直にいうと、あまり部内の関係者はのってくる形ではありませんでした。そこで、どんな改善を加えたらよいかというのをIT FORCEさんを交えて徹底的に議論しました。そして2回目のフェーズの際、見事に要望に応えていただき、「これはいける!」という手ごたえを感じました。当初、1回目のフェーズで出てきた宿題を返せるかなと不安があったのですが、見事に期待に応えていただいて感謝しています。
また、実際に業務アプリケーションに触ってみたら、あれはどうなっている?これはどうなってる?など疑問がたくさん出て、本稼働に向けた有効な意見をたくさん得られました。これなら他所属にも話を広げていけるという確信を持ちました。
大野様:
汎用的な指導監査チェックリストをプロトタイプで見たとき、法改正などでチェック項目が変わっても、システム改修なく職員側でリスト更新すれば利用できるなど、他業務でも転用できる理想的な仕組みと感じることができ、感動しました。プロトタイプとして構築された業務アプリケーションは、もう、このまま本稼働ができるのでは、と勘違いするほど、出来栄えがよかったです。
PoC実施による効果
ー今回のPoCで、見えてきた効果などはありますか?
北村様:
今回は、指導監査に絞ったPoCを行ったので、特にそのセクションの方々にはご負担をかけましたが、具体的なプロトタイプを見て触れられることで、必要な機能とそうでない機能の取捨選択がスムーズにできたと感じております。また、真に必要な機能に的を絞ったシステムに練り上げたことで、想定していた金額よりも大幅に削減する見込みができました。現状、まだ予算確保には至れていないのですが、仮にこの業務アプリケーションが本稼働した場合には、業務効率化やペーパーレスを合わせて年間2000万円程度のコスト削減が見込めると試算しています。
また、数字での効果は出せませんが、指導監査等の対象となる事業者との情報のやり取りを、マイページを通してできるところにも魅力を感じています。本稼働した場合、資料を郵送で待つこともなく、一連の監査業務にかかる時間の削減も見込まれるかと思います。
監査等実施時にも、結果をその場で入力できれば、その後工程の業務効率も上がりますし、ペーパーレスにもつながります。現場に書類を手荷物として運ぶよりも荷物が減りますし、効率化によって訪問できる件数も増える可能性も出てくるなど、様々な観点から見ても業務改善が可能かと思われます。
福祉というのは、誰一人とりこぼさないという観点が必要です。お年を召した方であれば、紙媒体の方が慣れていらっしゃるし、聴覚障がいの方であれば、FAXの方が使いやすいなど、その方それぞれの事情に合わせる必要があるのも確かです。そして、このような理念をしっかり継承したうえで、改めて現在のデジタル技術を見渡してみると、昔はできなかった業務改善が今は可能になっているかもしれません。一度立ち止まって「今でもこのやり方でいいのかな?」と問うてみるタイミングに来ている気がしています。今後も業務改善を福祉部の文化として根付かせ、効率をあげることでサービスを拡充し、大阪府の皆様のお役に立てればと考えています。
大野様:
今回のPoCでは、実際の業務を落とし込みながらシステムの構築範囲を特定していく作業も同時に行いました。こうした手法により、構築費用の抑制も意識しつつ、実務に即した必要機能を備えることで、運用開始後の職員の負担や仕様上のギャップも減らすことができると考えています。一般的には、基本構想コンサルティングや仕様書策定業務を委託するなどの手法が多くとられていますが、PoCで試作・検証を繰り返しながら、現場の方々と一緒になって安価に業務・システム要件を整理することができるため、これは大きな成果だと感じました。今回の経験を活かし、アナログ業務のデジタル化をはじめ行政DXを進めていきたいと考えています。
導入効果
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PoCにより、実際の業務を想定したプロトタイプを構築することで、現場の真のニーズを引き出すことができ、システムを本格導入する際の仕様上のギャップを低減することができた。また汎用性を持たせつつも、開発範囲を限定することで構築費用を抑える見通しが得られた。
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業務アプリケーションに監査結果を直接入力することで、ペーパーレスになるほか、データベース化も可能になり、ナレッジの共有もスムーズにできると想定。
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指導監査対象の事業者とやりとりができるマイページを開設。相手の事業者等とマイページ上で情報のやり取りを行うことで、申請書類が届くまでの時間も短くなると想定、業務効率化が見込まれた。
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業務アプリケーションが本稼働した場合、業務効率化やペーパーレスにより約2000万円の費用削減の見込みが得られた。
今後のシステム展開について
北村様:
今回のPoCで、大阪府福祉部の業務改善やDXがまた一歩進んだと思っています。職員が主体となってスモールスタートから進めることや、民間企業とアイディアレベルで気さくに相談しながら進めていくやり方に手応えを感じることができました。こうして生まれるマンパワーを活用して、より良い福祉行政に繋げることができるのではないかと感じております。
今後も福祉部は、民間企業の力を借りながら、デジタイゼーション・デジタライゼーションも含めて、職員発信の業務改善やDXを活性化させていきたいと考えています。そのために、課題把握・人材育成・相談支援・業務改善のサイクルを回していくアクションプランを策定しているところであり、今後はより計画的・戦略的に推進できればと思います。
大野様:
これからの行政において、府民サービスの向上や業務効率化を進めるためには、府民との接点や業務の現場において、その職務を担う職員自らがDXの知識をもって業務改善を進めることが必要だと考えています。その中でもDX部門は、行政DXの観点から事業部門を支え、プロジェクトの企画段階から、構築、運用まで伴走支援していきたいと考えています。
DXの推進は、一度に多くの領域に着手するのではなく、スモールスタートで成功体験や効果を積み重ねながら対象を拡大し、他業務へ展開も図るなど、組織全体でDXに対する機運醸成を図っていくことが重要と考えており、行政DXによる住民サービスの向上や職員の業務効率化を、今後も加速させていきたいと考えています。
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